Monday, April 23, 2007

LOS DESAPARECIDOS

学生がブログで"Los Desaparecidos" (The Disappeared)という美術展について書いていて,ちょっと興味を惹かれたので行ってきました。場所はイースト・ハーレムにあるEl Museo Del Barrio。南米の芸術家の作品だけを集めた美術館です(写真右)。メトロポリタン美術館のような派手さがまったくない,れんが造りの建物の中にひっそりとある美術館でした。うちから歩いて30分ぐらいのところにあったので,天気もいいことだし,散歩がてら歩いて行きました。そこで職場の友人と落ち合い,いざ美術館の中へ。美術館自体も小さく,目的の"Los Desaparecidos"は1階のみの展示でしたが,インパクトが強烈でした。

"Los Desaparecidos"というのは,"The Disappeared"という意味で,1950年代中盤から1980年代にかけて南米の政治闘争に巻き込まれ,誘拐・拷問の末殺され,消された人々とのことをさしています。この美術展は消された人々を描いた,ウルグアイ,アルゼンチン,チリなどの南米出身の作家の作品を集めたものです。入るとすぐに誘拐された人々を描いた木版画があり,さらに入ると犠牲者の肖像画と共に生存者の証言が書いてある作品がありました。その証言の中の拷問のひどさと言ったら...。人間はどうすればそこまで人間に対して残酷なことができるんだろうかと思うような内容でした。南米にはナチスの生き残りが極秘に亡命したと言われていますが,南米での政治粛正には亡命ナチ党員の影響もあると言われているそうです。


展示品の中で私がよかったと思った作品を2,3紹介します。まずFernando Traversoの自転車の作品です。左のは29枚のシルクスクリーンに自転車が描かれています。「29」は反体制運動家として活動していたTraversoの友人のうち,消された人の数だそうです。そして右の写真はRosarioというアルゼンチンの町から「消えた」350人を象徴して,Traversoが町中にスプレーで描いた350台の自転車の写真です。自転車は反体制運動家が好んで使った交通手段だそうで,たいてい彼らの自転車が放置されているのが発見されると,消されたということになったそうです。自転車は普通,どこかへ行くための交通手段という意味しか持たないですが,Traversoや同じような経験をした人にとっては政治粛正の象徴です。こんなに普通の「モノ」さえつらく,悲しい意味を持つのだということを思わせる作品です。

もうひとつはAna Tiscorniaの"Images in Portrait II"です。消された人々の肖像画を曇ったスクリーンで覆っています。見えそうで見えない,消された人々の姿そのものを表していると思います。実際,消された人々の身元を正確に把握することは困難でしょう。混乱の中消された人々の全員を見ることはできませんが,この作品のように少しでも見える部分を私たちは忘れてはいけない。そういう作家の気持ちが伝わってくると思います。

この美術館の前はセントラルパークのObservatory Garden(写真下)で,とてもきれいに刈り込まれた庭を散歩していると,公園ですぎてゆく穏やかな時間と,美術館内で見た暗く,悲しい時間のギャップを感じずにはいられませんでした。

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